遺伝子組換え作物について〜その2

しばらくサボっていた遺伝子組み換えのお話、復活.
前回は(細胞と)遺伝子とその発現について.
http://d.hatena.ne.jp/moritaku_bear/20070309/p1


遺伝子組換え作物(GM作物:Genetic modified crops)の可否を判断してもらうためには、その仕組みを理解してもらう必要があります.そのため前回は遺伝子とはなにか、細胞とはなにか、、、、、つまり生命とはなにかということについて概説したつもり、ですが果たして説明できてたかな?


世間では遺伝子やDNAという言葉には拒否感が強いらしいです.
しかしながら、、、、、
・地球上の全生物(もちろんヒトを含む)は遺伝子を持ち,DNAを持っている.それらなしに生命は存在しえない.
・遺伝子やDNAは生命を動かすための特殊なものではなく、全細胞が当たり前に持っているものであり、生物を食べる限りは当たり前に摂取することになる.
・タンパク質は遺伝子の産物である.糖や脂肪も遺伝子産物であるタンパク質が酵素反応によって合成したものである.
と、いう理由から遺伝子やDNAに拒否感を抱くのはそもそも間違っていることなのです.前回はそれを納得してもらうために、あーだこーだと書き連ねました.
納得できなかったらもう1回読んでね.
こちら


さて遺伝子組み換え作物の話をする前に、これまで行われてきた作物育種方法について説明します.なぜかというと、これまで歴史的に行われてきた育種方法というものは、"長年行われてきたのだから安全だろう" という理由で受け入れられているようです.ならば "これまでの育種方法" と "遺伝子組換え" というものを生物学的に比較すれば、遺伝子組換えという技術の安全性を理解してもらえるからと考えました.
ちなみにこの説明方法は科学者や遺伝子組み換えをする企業(モンサント)が使うのと同じです.とは言え別に怪しい論理ではありません.私は正しい論理だと思っています.


、、、、、さてと.これまでの作物の育種方法は大きく次の2つに分けられます.
1. 作物にある性質の遺伝子を導入する
2. 作物のある性質の遺伝子を壊す
のどちらかです.
具体的な例を挙げると分かりやすいでしょうか.
1. は例えば美味しいけれど寒さに弱いイネに対して、寒冷に強い遺伝子を導入するとかそういうことです.
2. は農業上不都合な遺伝子を壊すことです.例えば作物は背丈が高くなると、台風等の強風で倒れやすくなります.背丈を必要以上に伸ばす遺伝子を壊してしまえば、台風に強い作物を作ることができます.


続いてこれら1. 2. を行うために、これまで行われてきた技術の説明.
まず1の例から
・交配
これは一般的に最も知られている方法ではないでしょうか.先程挙げたように例えば美味しいけど、寒さに弱いイネ品種(A)と、寒冷に強いけど食味は悪いイネ品種(B)をかけあわせて(片方の雌しべに、もう一方の雄しべの花粉をふりかける)、美味しくて、寒さに強いイネを作り出すとかいうものです.これを交配と言います.もしAとBを1回だけ交配させると、両方由来の染色体が1 : 1で存在します.そうすると食味、寒さに対する強さ等様々な性質をもったイネがたくさんできます.そのため何度も何度も交配と選抜を繰り返し、ほしい性質のみを持ったイネを選び出すのです.


さてこのとき、DNAレベルでは何が起こっているかと言うと、、、、、.
遺伝子はDNAの鎖の上に乗っていることを前回説明しました.この鎖はとーっても長いのですが、いくつかに分割されています.人間だと46(22種類×2+性染色体2本)本.この1本1本を染色体と言います.イネですと12種類×2 = 24本あります.同じ種類の染色体が2本(相同染色体と言います)ずつありますが、この2本は完全に一致しているものではありません.それぞれ対応する遺伝子、配列を持っていますが、異なるものです.交配するとそれぞれの親の品種からもらった染色体がそれぞれ1本ずつ入ったものができる.と思いきや、できないのです.それはDNAの乗り換えという現象が起こるからです.
ある染色体は内部の配列で切れて、別の染色体とつながったりします.これを乗り換えと言います.つまりそれぞれの親からもらった染色体は切ったり、くっついたりしてぐちゃぐちゃになるのです.しかしすべてが単純にぐちゃぐちゃに切り貼りされるわけではありません.乗り換えの中でもっとも多く起こるのが相同組み換え*1です.これは対応する染色体の、同じ場所同士(つまり相同な配列同士)が同じ場所で乗り換えを起こしたものです.
要は下の絵のようになります.

染色体のDNAが2色の縞模様をしていると考えて頂ければいいでしょうか.ちなみにこの相同組み換え、(植物の場合)現在の技術では狙った場所で起こすことはできず*2、ランダムに起こることになります.


この交配の時は、美味しい品種のイネに対して、寒冷に強い遺伝子だけが入ってくれれば良いのです.他は要りません.余計なものが入っていると味が落ちます.もしこの組み換えや乗り換えがもしなかったとしたら、、、、、例えばもし食味の遺伝子と寒さの遺伝子が同じ染色体上に乗っていたら、永遠に良い食味と寒さに強い遺伝子を同時にもった品種を作り出すことは不可能なのです.
交配で新しくできた品種に対して、さらに美味しい品種のイネを交配させます.この作業を繰り返していくと、相同組み換えによって(確率的に)遺伝子のほとんどが美味しい品種由来で、寒冷に強い遺伝子だけが入った品種を作り出すことができます(図の"最終的にはこうしたい"のところ).


さて、この交配.欠点もいくつかあります.まずは手間がかかること.交配を何度も繰り返すため(詳しく知りませんが5〜10回くらいやるのでしょうか)、大変な時間がかかります.イネは種を撒いてから、種籾がとれるまで温室でも4, 5ヶ月かかります.これを5回繰り返していたら、優に3年はかかります.
またこういった美味しさや寒さに強いという遺伝子は特定されないままなのがほとんどです.遺伝子の単離と言うのは大変な作業ですし、こういった性質が単一の遺伝子で決まるとも限りません.ですから交配による品種改良では、どういう遺伝子が働いているのか全く不明です.また交配の過程で、どのような遺伝子レベルの変化が起こっているのかも分かりません.交配の度に先ほど書いた乗り換えが凄まじい回数起こります.相同組み換え以外の、全く関係ない部分の乗り換えだって起こります.そのためとんでもない変異が起こっている可能性だってあります.さらによくない遺伝子が入ってしまっている可能性もありますが、それらすべてを検定するのは大変難しいので、全く行われていないのです.


・細胞融合
交配による品種改良というのは、両者が "交配" できる場合に限られます.イネとミカンは交配できない、、、、、というとちょっと極端ですが、小麦と大麦も交配できませんし、もっと近い種間でも交配できないことはあります.この一番の障壁は受粉から受精の段階です.そういう時には細胞融合という方法が使われます.これは植物細胞の細胞壁酵素で分解してつくったプロトプラスト同士を融合させるものです.これで受精の障壁を乗り越えるわけです.ただこの細胞融合、大きくなっても種子を作れない場合が多いそうです.そりゃそうです.もしゲノムが2n=24の作物と2n=40の作物を細胞融合させれば、2n=64の作物ができるわけです.種を形成するのに必要な遺伝子が2セットも入っているわけです.どちらの親由来の遺伝子が優性になるのか、また組み合わせによっては不都合なこと(死んでしまうとか)も多いでしょう.そうなると作物として使えない(組織培養すれば種から作る必要もないですが).
あともうひとつは、、、、、遺伝子組み換えがダメって言うのに、細胞融合はいいの?と私は疑問に思います.おもいっきり種の壁を越えてるじゃん!普通に使われている技術です.一般の方はこういうこと知らないから別にいいのですが、遺伝子組換え反対の人達が細胞融合を知らないはずはあるまい.少々疑問に思います.


次は2の遺伝子を壊す方法です.
・変異導入
品種改良のもうひとつの方法は変異導入.これは交配と並んでよく用いられているようです.変異と言うのは、DNAレベルで変化を起こすことです.塩基が別のものに置き換わったり、なくなったり、増えたり、、、、、何が起こっているかは場合によります.このDNAレベルの変異は遺伝子の働きに影響を及ぼすことがあります(もちろん何の影響も及ぼさないのが圧倒的に多い).変異によって遺伝子が働かなくなったり、DNAの置き換わり→アミノ酸の置き換わりによって遺伝子の機能が変化したり、遺伝子の発現量が変化(増えたり、減ったり)したりします.
変異導入はランダムに導入する方法が採用されています.たーくさん変異株をつくってやり、ひたすら有用そうな株を選抜するのです.
変異の導入方法は大きく分けて放射線と薬品の2種類があります.放射線γ線の照射、薬品はEMS等の変異導入(DNAの塩基置換を誘導する)剤が使われます.γ線がもっともよく使われているでしょうか.
この方法の問題点はいったいどういった変異が入ったのか分からないことです.調べようと思えば、大変な労力をかけて調べることもできますが、普通やらないと思います.
あと、もうひとつ.一般の方にγ線放射線、薬品といった単語はドンビキされるんじゃないかと思いますが、別にγ線浴びたからって、それを選抜し、食卓に届く頃まで私たちに影響(放射線が残留)したりしません.問題なし.ただ遺伝子組換え反対の人達にとってみれば倫理的に嫌なんじゃないかと思いますが、、、、、どうなんでしょう.とーってもよく使われている技術ですが、これに反対する意見ってあまり聞いたことないけど.


さてよく使われる方法は以上の3つです.しかし伝統的育種として一般社会に受け入れられているのは最初の交配だけでしょう.他は単に知られていないだけで、皆が知ったらやはり嫌だなぁー、と感じられると思います.ただまあ、私にしてみればどれも大して変わらないと思いますが、、、、、
遺伝子組換えに関する説明は次回行いますが、上記3つが遺伝子組み換えと比較してなにより劣る点は


遺伝子レベルで何が起こっているか、まったく分からない、調べられていない.


という点です.だからと言って危ないわけではありませんが、上記3つがOKなら、遺伝子組み換えはなおさらOKじゃん.と、思うわけです.
次回は(2週間以内には書きます)遺伝子組換えについて説明した上で、伝統的育種法(交配)と比較して遺伝子組み換えに対する私の意見を述べたいと思います.
それではまた今度.

*1:本来乗り換えと組み換えは全く異なる意味合いの単語ですが、今回細かいことは気にしない

*2:一部の真菌では可能