昨日読んだ論文


イネいもち病菌のT-DNA挿入変異体を大量につくり、ハイスループット機能解析をしたもの.Nature Geneticsらしいな.私がやっている遺伝子が入っていたら、ヤバいなぁ、、、、、と思ったのですが、どれも入っていなかった.良かった、、、、、ホッ.イネいもち病菌は約1万の遺伝子を持っているのですが、今回の変異株は全部で2万強.シングル挿入変異は80%でカバー率は61%.運が良かったか.ま、もし入っていたとしても、私はかなりニッチな視点から見ているのでさほど問題ない.ハイスループットスクリーニングでは絶対見つけられないだろう(←妙な自信)
通常ハイスループットな解析だと目立ちやすい2,3点しか解析しないのだけれども、この論文では合計7点で解析していました.それだけにこれまでの解析では分からなかったおもしろい点もいくつかあり、またこれまで機能不明だった遺伝子の解析も進むことと思います.これからの進展が楽しみでもあります.



病原菌に感染した植物で、転写物(RNA)に多くの変異が導入されていることの報告.
病原菌感染時の植物の転写物をSAGEによって解析したところ、コントロール(非感染植物)やゲノム情報と比べて多くの変異が入っていることが見つかった.解析してみると変異の多くはA→G、U→Cのもので、それではと核酸のデアミナーゼ遺伝子の発現をみてみたところ、2つの発現量が増大していた.さらにSAGEのタグの中に、アンチセンスのRNAも多数見つかった.
役割は不明.ヒトではレトロウイルスのRNAに変異を入れて抑制するため、デアミナーゼが誘導される例があるそうですが、菌では無意味でしょう.
アンチセンスRNAですが、普通dsRNAを作ってサイレンシング、、、、、(昨年のノーベル医学・生理学賞の受賞研究がこれでした)と、なると思いますが、dsRNAはサイレンシング以外にもRNA編集のターゲットになる例が(動物で)知られているらしい.


ちょっと残念だったのが、2つのデアミナーゼ遺伝子変異植物ではどうなるか解析していなかったこと(イネなら奈良先端のpANDAベクターで、サイレンシング植物をつくれるはずだ.それが面倒でもIRRIや生物研のジーンバンクに変異株があるんじゃないかな).RNAに変異の入らない場合は、病原菌に対する応答等がどのようになるのか大変興味深いところです.植物ゲノムレベルでの変異ではないのだから、数世代に渡る抵抗性の獲得という話ではなく、一時的なものであるはず.もし変化があったら凄いインパクトだと思います.次やるのかな?


これはイネいもち病菌だけの話ですが、同様な現象が他の病原体でも観察されたらとてつもなく面白いですね.植物の病害応答にもRNA編集の波が押し寄せてきたかな.


ちなみにこのPlant PhysiologyやPlant Cell(どちらもアメリカ植物生理学会発行の大変有名な雑誌)は今年から論文のダウンロードがタダになりました.通常論文1報につき、$10〜20のお金を徴収します.大学とか研究所の場合は年間契約していくらでもダウンロードできますが、それでも莫大な金額がかかるようです.
ダウンロード代がタダになると、学会としては大幅な収入減になると思いますが、学会員に対してこれまで行っていた製本雑誌の無料配布を止めたことで補ったのかもしれません(このご時世、学会員ですら製本雑誌なんて読まないし).
もちろんこのように無料ダウンロードをしている雑誌は既にたくさんありますが、Plant PhysiologyやPlant Cellほど権威のある雑誌での例は存じません.知識の幅広い共有と言う意味で、アメリカ植物生理学会の試みは大変良いものだと思います.こういった試みがこれからも広がっていくと良いですね.