エベレストに触発されて?

http://japan.discovery.com/series/index.php?sid=756
フミーがディスカバに入るまでもなく、ディスカバリーの番組はそこそこ好きで見ています.7月からエベレスト*1登頂までを追った6回シリーズが放送されていて、ちょうど昨日が最終回でした(初回放送は見逃したが、8/19に再放送するらしい).
自分は山登りをします.ハイキングから岩登り、沢登り、雪山、アイス等々どれもある程度はできる.しかしエベレストはどのジャンルにも属さない全く別種のもの.高度8千mともなると酸素は平地の3分の1しかない.そのような状況では一歩一歩が辛いばかりでなく、身体が自己防衛反応のために末端組織への血液の供給を止めてしまい凍傷の原因となる.特に標高7800mを超える領域はデスゾーンと呼ばれ、ここで5日以上生存した人はいないらしい.映像で見る氷壁やミックス壁(岩と氷の混じった壁)はレベル的には非常に簡単そうであり、下界なら初心者でも越えられる程度だと思う.けれども8千mの高高度では低酸素により身体能力が落ち、判断能力も著しく低下している.簡単な壁でも通行には非常な時間を要していたことからも低酸素の影響が伺えた.
現在のヒマラヤ登山は商業化し、ガイドによる至れり尽くせりの環境が提供されている.この放送でもキャンプの設営、頂上まで至る固定ロープ設置、酸素ボンベや食糧、物資の荷揚げに加え、登頂時には隊員1人につきシェルパ1人、3人につきガイド1人が随伴、さらには低酸素で判断の鈍ることを見越して下から望遠鏡で監視している隊長から常時無線で指示を受けながらの登攀を行っていた.
こういったやり方には批判も多い.安定した天候ならば至れり尽くせりの補助によって登頂、下山することは可能かもしれない(それでも登頂率は2割以下らしいが).だが一旦状況が悪化すると自らの力で脱出することのできない人間には死が待っている(この高高度での救助は不可能).また商業登山との直接の関係はないが使用済みの酸素ボンベ等のゴミもほとんどは残置されたままではなかろうか.
そういった批判があるのは承知の上でも見応えのある番組だった.合計6人の隊員が登頂を目指したが、その中には凍傷により両足を膝から切断し義足で登る者、喘息を抱えながら無酸素登頂を目指す者もいた.冷静に見ればエベレストに登頂するだけの力がなかった者も少なくなかった.彼らはアルパインスタイルで登頂できるような技術・体力は持っていない.だがトレーニングを積み、現地入り後も十分な準備を進めていたし、ガイドも各自の体力や天候を見極め、遭難を出さぬよう周到な準備を進めていた.登山として見るならば悪しきものかもしれないが、困難への挑戦としてみるならば見応えがあった.特に最終アタックの10時間を越える行動は圧巻.ここまでの苦労にも関わらず、実力不足やアクシデントにより頂上に立てず悔しがる隊員.頂上に立った者も長い道のりを再び下山しなければならない.「頂上に立ってもまだ道の半分に過ぎない.エベレスト遭難の80%は下山時に起きている」というガイドの言葉が印象深い.
ただドキュメンタリーらしく多くの困難や危機を強調しすぎるきらいもあり、最終局面での一部隊員の暴走(撤退指示に反しての強行)を除けば、ガイドの適切なコーディネートによりさほどの危機とも思えず、いささか大袈裟じゃないの?と不満を感じる面も多かった*2


冒頭のリンクにあるように、8/19の13時から19時までに全回再放送するようなので興味のある方はご覧下さい.


私はエベレスト登りたいかって?
私はああいう至れり尽くせりな登山はしたくないな.それにリスクが高過ぎる.世界初のことでもないし、心から好きでやれる気もしない.自分の命を危険にさらしてまで達成すべき目標ではないと思った.


でも最終アタックの12時間を越える行動にはちょっと触発されました.酸素の心配なんかまったくない日本の3千m前後の山ですが、私も長距離歩くのが好きで(と、いうか耐久力が私の一番の得意分野なので)学部学生時代は連日の10時間を越える登山をしていました.日が昇る前、朝3時くらいから歩き始め、雷雲の発生前(天気のよい日山では上昇気流で積乱雲が発生し、15時くらいには雷雨となる)まで歩き続けたものです.山の長距離歩きは4年前以来してないでしょうか.今年は忙しくてそれどころではないのですが、何だか急にやりたくなりました.

*1:ネパール名サガルマータ、チベット名チョモランマ

*2:それでも最終的に2人の隊員が凍傷により組織を切断することになってしまったが