テストステロンの検出法

ここのところ情報を人に頼りっきりのmoritaku_bearです.はい.
今回もカピバラさんが書かれてらっしゃいましたテストステロン検出ガイダンスに頼りました.毎度のことながらすみません.
読んでみたところ


・その1:通常のテストステロンの検出にはGC/MSを用いる
解説すると、、、、、GCというのはガスクロマトグラフィーの略です.MSはマス、すなわち質量分析のこと.
クロマトグラフィーとは混合物質をきれいにする方法で、管の中に詰めたとある固定相 ― まあ固体でも液体でもなんでも構わないのですが ― その中に分析したい物質(混合物)通すと、大きさとか電気的性質とか吸着しやすさとかでその混合物の移動速度が変わりますから、混合物がその移動速度によって順々に管から出てくるわけです.この方法によって混合物を精製(物質をきれいにする)ことができます.GCというのは分析したい対象物質を揮発させ(キャリアーである)ガス中にのせてクロマトグラフの中を通すシステムのことです.
MSというのは、えーと田中耕一さんがノーベル賞取ったの覚えていますでしょうか、あの時の分析機器*1のことで、なんであるのかよくわからない物質をその"質量"によって同定しようという分析方法です.ただしこのMS装置は入れた試料の質量を測るだけの装置なので、混合物を測定するのにはちょっとそぐわないのです.
と、いうわけでまとめると、GCでテストステロン、エピテストステロンを含む混合物を精製し、次いでそれぞれをMSで計測することで物質の同定を行う.ということです.またMSの時に出たピークの強度を測ることによって定量もできます.これによってテストステロン/エピテストステロン比(T/E比)を出しているようです.
テストステロンのような低分子化合物の同定、定量にはGCGC-MS)は優れた方法ですが、テストステロンとエピテステステロンはエピマー(不斉(=キラル)のようなものです)の関係にあるので分離が難しそうな気もします.だったらテストステロン、エピテストステロンそれぞれの代謝物も調べればいいんじゃないかとなりそうですが、そうするとまた変数が増えてしまうし、、、、、そこのところはまた機会があったら調べます.(すいません、当初GCだけで十分じゃないか、MSを使う必要ないんじゃないかと文句をつけましたが、後の文章読んだら必要でした)


そして以上の検査の結果
T/E比が4以上
テストステロン、エピテストステロンが200ng/ml以上
テストステロン、エピテストステロン代謝物の量も規定量を超える
の以上いずれかが該当する場合にはIRMSによる検定を行なうようにとなっております.


・その2:IRMS
この辺りについてはnacoさんやmasayangさんも記載されてるので、簡潔に.
由来の異なるものならば同位体の比率も異なる(ケースが多い)から、これを検査しようというものです.
テストステロンの構造式はWikiこちら)にあります.見ての通りH, C, Oのみで構成されている分子.それぞれの原子には種々の同位体が存在しますが、存在比の大きさから12C/13Cが選択されています.放射性同位体はというと半減期が長過ぎたりでちょっと難しそう*2
検査には外部から摂取したかもしれない薬物(テストステロン)と間違いなく体内由来と言える物質(種々のステロイド化合物を含む脂質)との12C/13Cの存在比を比較します。


これがどのようなものかというと、テストステロンの構造式をみると19個の炭素で成り立っているのが分かります。ほとんどの場合これら炭素は12Cで構成されますが、13Cも1.1%存在しているため、確率的にこれら炭素のうちいくらかが13Cで構成されることがあります。12Cと13Cは質量数が1異なるため、ひとつの炭素が13Cであるものがある一定の割合である場合、MSで測定するとその割合比で異なるピークが観測されます。ピーク強度は分子の存在比に比例するため、これから逆算して12C/13Cの存在比を求めることが出来ます。
つまりテストステロンは19個の炭素で構成されるため、13Cの存在比率をaとすると、12Cの比率は1-a、
とすると炭素すべてが12Cで構成される化合物の割合は
(1-a)^19
ひとつの炭素が13C、残りが12Cで構成される化合物の割合は
(1-a)^18×a×19
以下同様に3つの炭素が13Cで構成される、、、、、と続きますが、aの値が0.01程度で寄与率は低いし、そもそも見る必要も低いので無視
というわけで
それらの比は(1-a)^19 : (1-a)^18×a×19 :
=(1-a) : a×19
aの値は0.010(すなわち1.0%)とすると 0.99 : 0.19 = 1 : 0.192 (= すべてが12Cで構成されるテストステロンのピーク強度 : ひとつの炭素が13Cで構成されるテストステロンのピーク強度)
aの値が0.011(すなわち1.1%)とすると 0.989 : 0.209 = 1 : 0.211
コレステロール等も同様に計算します。まあつまり、由来の異なる炭素化合物の13C比率が0.1%程度異なればMSで定量できると考えられます。検出限界がどの程度なのかは論文をみなと分かりません(すいません、今出先なので11日まで調べられず)。
もちろん由来が異なっても12C/13Cの存在比が同程度である可能性も高いので、その場合はクロと証明することが出来なくなります。ただし存在比が異なっている=由来が異なっているということになるので、その場合は間違いなく黒と証明されます。


でまあ以上の試験結果を受けてどうしろと書いてあるかというと
・IRMSで12C/13Cの存在比が同じ、と出てもシロという証明にはならないからもっと調べろ。
・怪しいのなら昔のデータ、サンプルも取り寄せろ
・IRMSをするに十分なサンプルがないけど、過去の検査から疑わしい状況なら3ヶ月以内に3回は抜き打ち検査をしろ.
と、なっています.(3回やれっていうのは3回同じ試験をして3回同じ結果が出たら統計的にそのデータは正しいということから来てます)


それからT/E値の変動は男性の場合通常平均から30%以内、それから女性の場合テストステロンやエピテストステロンの値はほとんど検出限界程度だ(テストステロンは男性ホルモンだから)と書いてあります。

*1:田中さんが考案したのはMALDI-TOF-MSのMALDI部分ですが

*2:存在比が少なすぎますが、トリチウムは可能かもしれません